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那覇家庭裁判所 平成6年(少ロ)1号 決定

本人 S・M(昭50.7.21生)

主文

本件については、補償しない。

理由

当裁判所は、平成6年2月7日、本人に対する平成5年少第348号保護事件について、送致された窃盗の事実を認定したうえ、本人を中等少年院に送致する旨の決定をするとともに、送致された住居侵入の事実については、その事実が認められないことを理由として、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

同事件の記録によれば、本人は、平成5年10月18日住居侵入、窃盗の事実で逮捕され、同月20日同事実で勾留された後、同月29日に同事実について観護措置決定を受け、少年鑑別所に収容され、同年11月18日に観護措置が取り消された後に翌6年2月2日上記窃盗の事実により再び観護措置決定を受け同月7日までの間少年鑑別所に収容されたことが認められる。従って、一応少年の保護事件に係る補償に関する法律2条の補償要件はあるものというべきである。

しかしながら、上記記録を検討すると、その事案の性質や前歴、本人の要保護性に鑑みれば、その存在が認められた窃盗の事実だけでも十分に逮捕、勾留及び観護措置の要件を満たす場合であり、かつ、その身柄拘束の期間が、特に短縮されるべきものであったとは認められない。

よって本件については、同法3条2号に該当するので、同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととし、同法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 村越一浩)

〔参考〕 保護事件(那覇家平5(少)348号住居侵入、窃盗保護事件平6.2.7決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

本件送致事実中、住居侵入の事実については、少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は、平成5年10月16日午前11時ころ、那覇市○○×丁目××番×号○○マンション××号A方において、同人所有の現金4万1000円が入った財布1個(時価5000円相当)を盗み取った。

(住居侵入を認定しなかった理由)

本件送致事実は、「少年は、平成5年10月16日午前11時ころ、沖縄県那覇市○○×丁目××番×号○○マンション××号A方に侵入し、同人所有の現金4万1000円及び財布1個(時価5000円相当)を窃取したものである。」というものであり、認定した窃盗に加えて住居侵入の事実もあわせて送致されている。

しかしながら、刑法130条前段にいう「侵入」とは、他人の看守する建造物等に管理者の意思に反して立ち入ることをいうと解するべきである(最判昭58・4・8集37巻3号215頁)。

そこで一件記録及び審判廷における少年の供述を総合検討すると、(1)被害者A(以下「被害者」という。)は本件犯行現場宅(以下「被害者宅」という。)にBとともに居住しており、本件犯行当時被害者、Bを含む計3名で同宅において玄関の扉を半開きにしたまま就寝していたこと、(2)少年と被害者とは小学校時代の同級生であり、本件非行以前にも少年は時折被害者宅を訪れて話をしたりしていたこと、(3)少年は午前11時ころ被害者宅を訪れ、玄関半開きの扉から室内に立ち入ったこと、(4)被害者は人の気配に気づいて目を覚まし少年が部屋に来たことを知ったが、少年とは余り関わりを持ちたくなかったので寝たふりをしていたこと、(5)少年は、窃盗の点については供述の変遷がみられるが、住居侵入の点については、当初からお金を取るつもりで被害者宅を訪れたものではなく、被害者の財布が部屋の中に置いてあるのを見て始めてお金を取ろうと思い立った旨捜査、審判を通じて一貫して供述しており、上記(2)ないし(4)の事実経過からみて右供述はあながち信用できないとは言えないこと、以上の事実が認められる。

以上の被害者宅の状況、少年の立ち入りの目的及び態様、被害者の態度等を総合考慮すれば、少年が被害者宅に立ち入った行為は、被害者の意思に反して立ち入ったものでないことは明らかであり、結局住居侵入の事実は認められない。

(適用法令)

刑法235条

(処遇理由)

少年は、パブラウンジで飲酒中に、他の客がカウンターの上に置いた財布を盗んだ件で、当庁において、平成5年9月20日保護観察決定になっているが、その後すぐに本件非行を起こしており、非行態様、事件が発覚したときの否認の態度など、前件時と何ら変わるところがない。

然るに本件について、少年に今一度立ち直りのきっかけを与えることが相当と判断して〈1〉この事件を反省して、被害者への謝罪・弁償をすること〈2〉仕事に就くこと〈3〉生活態度を改善することを遵守事項として同年11月18日在宅試験観察にした。

しかしながら、少年は上記決定後まもなく調査官の呼び出しにも関わらず裁判所に出頭しなくなり、仕事も無断で辞めたほか、新たな就労先でトラブルを起こすなど、全く裁判所の指示に従うことなく、かえってその生活は逸脱の程度を深めるに至っており、もはや在宅処遇の継続によっては更生の可能性はないと言わざるを得ない。

従って、この際、少年を少年院に収容し、施設内における教育でこれまでの生活を振り返り、虚言癖や盗癖を改めて、周囲の人の信頼を取り戻させることが必要である。

よって少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項後段を適用して主文のとおり決定する。(裁判官 村越一浩)

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